いつの間にか大きくなっていた、私とあなたの心のミゾ。「忙しい。」それはただの言い訳で、今何を思っても、思い出しても、後悔しても、もう遅い。この部屋に君はいない。帰ってこない。少ない荷物でうちにやって来たキミの本が今、我が家の本棚から消えているというのは、そうゆうことだ。本棚には2~3冊の本が倒れていた。あなたと出会う前から私が持っていて、あなたと共にもう一冊ずつやってきた本たち。また1人に…ではなく、また1冊になった。もう本棚はいらない。クローゼットにしまうか、古本屋さんに持っていくだろう。
私と私の部屋は、あなたのいなくなったスペースにただ立ち尽くしていた。絶対的な終わりに呆然としながら、奇跡的なあなたの帰りを待っていた。
ソファにはあなたの面影がしっかり座って、私は近付けなかった。浅く腰掛けてお行儀よく読書をするその姿を、横から眺めるのが好きだった。
涙も出ず、抜け殻のように、すべて諦めたように、あなたの帰りを待っていた。
溢れた想いがとうとう一粒に変わりそうになったその瞬間、ドアが開き、あなたの「ただいま。」があとに続いた。
あなたは「ごめんね。」とうつむいて、私も「私こそ。」とうつむいて…
そのあと二人で、あなたの本を、本棚に戻した。気付けば私の3冊はあなたの本の海に紛れ、どっちの本かわからなくなった。